散歩に行こうと言い出す旦那はいつもいきなりで
早足で歩く旦那の斜め後ろがそんなときの俺の定位置。
さっき、腹が減ったとか言っていたから
旦那が目指しているのは十中八九城下の茶屋だろう。
俺が呆れて、いつもよく飽きないねと聞けば
飽きるものかと、振り向きざまに笑われた。
1・君が笑う
(その笑顔が見たいからつい)
その日、城下は妙に賑やかで
いつにも増して人が多かった。
どうやら旅の一座が来ているらしい。
俺はひょいひょいと人並みをかきわけ進む。
気がつけば、旦那は少し後ろに流され、待ってくれと慌てていた。
こりゃまずいと思った俺はとっさに旦那の手を取り歩くことにした。
そういや、こんな風に歩くのなんていつぶりだろうね。
2・手を繋ぐ
(いつもは出来やしないから)
ようやく辿り着いた茶屋は
旅の一座の影響か、いつもより少し混んでいた。
それでも旦那は気にすることなく、いつものように団子を注文する。
俺はいいって言ったのに、やっぱり俺の分も一緒に頼んだ。
暫くして出てきた団子は、季節ものの新作だったらしく
旦那は目を輝かせて喜んでいた。
俺としてはこの顔が見れるだけで十分なんだけどねぇ。
・・・って、そんなにがっつかないの。
ああほら、餡子がついてるし。
世話が焼ける旦那だよ全く。
そんな旦那に幸せそうだねって聞いたら、
お前と一緒に来れたしなと言われた。
・・・ちょっと、なにそれ。
3・今 幸せかい?
(顔には出せない矜持)
折角だから寄っていこうと旦那が言ったので
帰りに少し一座を見ていくことにした。
一座は丁度、ちょっとした劇を繰り広げているところだった。
それは、よくありがちな恋の話。
後に永遠に別れてしまう、悲しい悲しい男と女の話。
ああ・・・こりゃまずったか。
旦那、頼むから破廉恥な!とかって騒がないでよ。
そう思いながら、もう帰る?と聞こうとしたら
旦那はその劇に見いっていた。
何も言わずに、ただ無表情に、じっと。
ふと見れば、旦那は俺の服の裾をぎゅっと握っていた。
俺は、たまらずそんな旦那の肩をそっと引き寄せた。
4・抱きしめる
(それは誰かの未来じゃないよ)
結局、旦那は劇が終わるまで動かなかった。
だから、帰り道は既に赤く染まっていた。
何も言わずに歩く旦那。
そんな姿を俺は、やはり斜め後ろから眺める。
旦那がなにを考えているか、俺には分かる。
そういうの、アンタには似合いませんよ。
だからこっそり隣まで近づいて言ってやった。
「 」
旦那は一瞬驚いた顔をしたけれど
そのあと、ああ。と小さく笑った。
そして、昼間のようにもう一度、そっと手を絡めれば
旦那は同じくらいそっと握り返してくれた。
たまにはこうして、隣を歩くのも悪くないな。
そんな赤い帰り道
5・耳元で囁く
(その笑顔が愛しいのです。とても)
佐幸で幸せな5のお題
短い話を書こうとしていろいろ玉砕した感じが否めません
お題:佐幸同盟