つい先日までの小雪が交じった空は嘘だったかのような、なんとも暖かな昼下がり。
佐助は縁側にぽつんと座る主を見かけ、背後から声をかけた。
「旦那?」
しかし、主から返事はない。
仕方なく、傍まで寄って再び声をかける。
「おーい、旦那ぁ?」
「ああ、佐助か。」
「何か考え事?さっきも呼んだんだけど。」
「いや、そういうわけではないのだが。」
佐助は伸びをする幸村の隣にしゃがみ込んだ。
先ほどまでずっと日に当たっていた幸村からは、ほっこりと暖かい熱が伝わってくる。
「なんとなく、聞こえなかったのだ。」
「ええ・・・なんかそれ、危なくない?」
「うむ・・・そう言われると、最近、たまに聞こえにくい気もする。」
ちょっとそれ、しゃれんなんないよ?とは言ってみるものの、当の本人は
「そう心配することでもないだろう。」
と、あまり気にしていないのだから問題だ。
「仕方ないなぁ・・・ちょっとみてあげるから、そこで待ってて。」
佐助はすくっと立ち上がると、ひょこひょこと部屋の中へ戻って行った。
残された幸村は、仕方がなくまた縁側で日にあたりながら待つことにした。
今日は、本当に暖かい。
すると、程無くして佐助が戻ってきた。
「あったあった。最近使ってなかったから探しちゃったよ。」
「なんだ?」
佐助の手には、愛用の耳かきがあった。
「おお、耳かきか。」
そ。と短く答え、佐助はまた幸村の横に戻り、正座した。
「ほら、横になって。」
ぽんぽんと膝を叩き催促すれば、幸村は直ぐにごろんと横になる。
「懐かしいな。」
「昔はよくしてあげたよね。忍の仕事じゃないって何回言っても、旦那がきかないから。」
「お前にしてもらうのが一番気持ちが良かったのだ、仕方あるまい。」
「そのせいで、旦那いつも直ぐに寝ちゃうんだもんな。」
「・・・言うな。」
幸村は、そう笑いながら動かす佐助の手も、決して居心地がいいとは言えないが、何故か落ち着く膝硬さも
昔と全く変わっていないことにとても安堵した。
本当に、全てが懐かしい。
暫く耳の中を掃除し、いろいろと覗いてみたか、特に怪しむところはない。
「・・・耳、別に変なところはないけどなぁ。旦那、一回反対向いて。」
「・・・」
「旦那?」
ちょっと、と声をかけてみれば、膝の上の主は昔のように、すやすやと夢の中にいた。
「・・・まさか、さっき俺の声が聞こえなかったのって、半分寝かけてただけなんじゃねえの?」
ありえねぇ!と呆れたが、
佐助もまた、体は見違えるほど大きく逞しくなっても、昔と変わらぬ温もりを宿す主が愛おしく思えたのだった。
「ほんと、今日はあったかいなぁ。」
動けぬ佐助は、膝の上で何やら幸せそうな夢を見る主に呟いたのだった。
三月三日
真田さんちの場合
三月三日は耳の日と押して参るSSS
その1